更新日:2024年11月2日
教育熱心な親でそだてられ、元気がない子どもたちがいます。
ほぼ支配にちかい管理で、もし子どもを精神的に追いつめていたら、
もはや教育熱心ではなく“教育虐待”なのです。(中学受験の例)
勉強していない時間が一瞬たりとも許せない
最近「教育虐待」という言葉が広まっています。
虐待といえば、暴力、暴言、育児放棄のようなイメージが強いと思います。
それらとは関係がないように思える「教育熱心」な親は、一見子ども思いの“いい親”に思われがちですが、もし子どもを精神的に追い詰めているようであれば、それは「虐待」なのです。これは、やっている親もやられている子どもも自覚しにくいという怖さがあります。
僕が中学受験指導をしていた頃の話です。
塾生A君は中学受験の勉強をしている5年生です。両親とも高学歴で教育熱心です。塾には1年生から通っています。母親はとにかく勉強をやらせたがります。
A君が勉強していない時間が一瞬たりとも許せないようで、次々と課題を渡します。例えば1時間(50分)勉強したら、10分の休憩が必要です。この10分が子どもにとってはリラックスできる時間で、そのメリハリがあることで学習効果が上がります。
そうアドバイスをしても、母親はまったく聞く耳を持ちません。その10分すら休ませたくないのです。
「ぼーっとしたり、遊んでいる暇があったら、勉強しなさい!」
「成績が上がらないのは、努力が足りないからよ!」
「休むくらいなら、この10分に勉強をして、クラスを2つ上げてほしい!」
この母親は、とにかくたくさん勉強すれば成績が上がると信じこんでいるのです。
頑張っているのに、成績が上がらない原因
母親思いのやさしいA君は、言われるがままに勉強をします。
しかし、その表情には活力がなく、元気がないのです。この調子で受験本番まで持つのだろうかと心配になります。
入塾面談をしていると、多くの母親からこんな相談を受けます。
「頑張っているのに、成績が上がらないんです。あと何をやらせればいいのでしょうか?」
成績が上がらない原因の多くは、「間違った勉強のやり方をしている」ことが挙げられます。具体的にはまず「勉強のやらせすぎ」が多いです。
そういう親の多くが、「自分は努力をして成功をつかんだ」という成功体験を持っています。高学歴のA君の母親が、勉強量にこだわるのも、自分はたくさん勉強をしてきたから結果を出すことができたと思い込んでいるからです。
しかし、成長過程の小学生の子どもは無理が利きません。夜遅くまで勉強をさせれば、そのダメージは翌日に必ず響きます。教育熱心な親は「間引きをする」という発想がそもそもありません。
習い事のやらせすぎは、大切な「遊び」を奪う
やらせすぎは勉強に限りません。幼い頃からたくさんの習い事をさせる親がいます。
ネットの普及で情報があふれている今、子育てに関する情報に振りまわされてしまう親が多いのです。
「ある東大生は幼い時に公文とピアノを習っていた」と知れば、わが子の興味などお構いなしに公文やピアノ教室に入れます。「有名な中学受験塾に入れたければ、低学年から席を確保しておかないと入れなくなってしまう」という噂を聞けば、われ先にと入塾させる。
なんでも早く始めるのが有利という考えが増えているように思います。
習い事をさせることが悪いということではありません。子ども自身に関心があればどんどんやらせてもいいと思います。しかし、やらせすぎには注意が必要です。それは、幼い頃からの習い事の詰めこみすぎは、子どもの「自由」を奪うからです。
子どもは遊びを通して、いろいろなことを学びます。例えば鬼ごっこ。
鬼に捕まらないようにするにはどうしたらいいか?
鬼になったときは、どうしたら捕まえることができるか?
など、考えて行動します。また、子どもの遊びには喧嘩がつきものです。
そういう時にどうしたらいいのかなど考えるチャンスも得られます。
判断力、問題解決能力、予想する力、想像力、発想力、表現力などの「生きる力」は、遊びを通じて身につくものです。これらは机上の教科学習だけでは身につきません。そのチャンスを奪うことが、僕は「教育虐待」だと思っています。
母親が不機嫌な家の子どもは、成績が伸びにくい
遊ばない子どもは発想力が乏しいです。
親に言われたことしかできないし、人から教わったことしかできません。
そういう応用力のない子どもは、いつかどこかで壁にぶつかります。幼い時から習い事をたくさんやってきた子どもは、中学受験の4年基礎内容まではなんとかなります。しかし、5年生以降に応用力が求められるようになると、まったくできません。
幼い時からたくさんのお金を教育に投資してきたのに成績がまったく上がりません。むしろ、下がっていく一方となった時、教育熱心な親はさらに量を増やします。
それでも成績が上がらないので親はイライラします。実は、母親が不機嫌な家の子どもは、成績が伸びにくいのです。小学生の子どもにとって、母親は誰よりも大切な存在です。その母親が自分のことでイライラしていると、子どもはどうしていいのかわからなくなってオロオロしてしまいます。幼い子どもにそうさせてしまうことも「教育虐待」だと思っています。
「言葉で責める」「過剰な管理をする」父親
教育虐待に走るのは、母親だけではありません。
中学受験といえば、昔は母親と子どもの二人三脚でした。
ところが今は、共働き家庭が多く、教育熱心な父親も増えています。
教育虐待に走る父親には2つのタイプがあります。一つは「言葉で責める」父親、もう一つは「過剰な管理をする」父親です。
言葉で責めるタイプは、自分に成功体験がある父親が多いです。
オレは子どもの頃から必死に努力をして勉強をした。だから、一流大学にも入れたし、一流企業にも就職できた。オレができたのだから、わが子にもできるだろうと自己投影してしまうのです。特に息子に対してその傾向は強いようです。
「何で分からないんだ!」
「オレが子どもの時はこんな問題は簡単に解けたぞ!」
「成績が上がらないのは努力が足りないからだ!」
「オレの子ならできるはずだ!」
「オレの子とは思えない!」
何度もそれを聞かされる子どもにしてみれば、決してうれしいものではないでしょう。
子どもが嫌だな、つらいなと思った時点で、それはもう立派な「教育虐待」なのですね。
不可能なスケジュールを立てて、できない子どもを叱る
算数ドリル15分、理科の復習45分、国語の語句30分・・・。
エクセルに1日の予定をぎっしり書き込み、それを強制する父親がいます。
中学受験の勉強に学習スケジュールを立てるのはいいことですが、ここまで細かいスケジュールは子どもを憂鬱にさせます。嫌な気持にさせます。
やることを管理したがる父親の共通点は、やらせる量が多いこと、短い時間設定でいろいろなことをやらせたがること。しかし、子どもは当然その通りにはできないし、無理に終わらせようとすれば、気持ちがあせり雑になります。雑になると計算ミスをします。
すると詰め込み思考の父親は、いよいよ暴走します。計算のスピードを上げさせて、見直しの時間を作ろうとするのです。これはビジネスの発想で、小学生の子どもに求めるものではありません。
不可能なスケジュールを立てておきながら、できない子どもを叱る。これも立派な「教育虐待」です。
子どもは「遠い未来」のために頑張れない
中学受験の勉強は平均3年かかります。
大人からすると、たった3年なのだから頑張れると思うのです。
しかし、入試が近づいている6年生でも一週間のことくらいしか頑張ることができません。
ましてや4年生なら一日のことで精一杯です。それは決して努力や気合が足りないのではありません。小学生の子どもは、大人のように先を見通す力がまだ十分に備わっていないからです。
しかし、少し頑張ればできそうと想像できる「近い未来」のことについては頑張ることができます。中学受験について言うと、これが成績を伸ばしていく秘訣です。だからスケジュールもあまり先まで立てないほうがいいのです。先々までやることが決められていると、子どもはその時点でやる気をなくします。
もしもスケジュールを立てるのであれば、せいぜい1週間分でいいです。(ちなみに当塾の高3生の学習スケジュールも立てるのは一週間分です)その際には子どもに自由裁量権を持たせることが大事です。勉強時間を決めたら、必ず自由時間も決めさせます。
スケジュールに無理を感じたら、そのたびに子どもと話し合って修正します。子どもがもしスケジュール通りに学習ができたとしても決して当たり前と思わず、その頑張った努力を認めてあげてほしいのです。
親の不安や自己満足をわが子に押しつけている
中学受験をさせたがる親は、教育熱心な人が多いです。
また、親自身、努力をして成果を上げてきた人も多いです。
そのため、「頑張れば必ず夢は叶う」と思いがちです。成長途中の小学生の子どもには、できることが限られています。また、子どもによって成熟度が違います。努力だけでは叶わないことがたくさんあります。頑張っても目標に届かないことを強要することや、子どもの意志に反して親の考えを押しつけることは、実は、親の不安や自己満足をわが子に押しつけているだけにすぎないのです。
親である自分の未熟さを認めよう
わが子が元気がないな、わが子の親を見るまなざしが険しくなっているな、と思ったら、「教育虐待」を疑ってみるべきかも知れません。中学受験というのは子どもがまだ幼いため、どうしても親のサポートが必要になります。そこで親はつい頑張ってしまうのですが、その頑張りの方向性が間違っていないか、常に意識してほしいのです。
ちょっと私、やらせすぎているかもしれないな、さっききついことを言ってしまったな、と気づいたら、そのたびに子どもに謝り、親である自分の未熟さも認めてほしいのです。そして、どんな小さなことでも子どもが頑張っている姿があれば、その努力を認め、ねぎらいの言葉や励ましの言葉をかけてほしいのです。
中学受験はわが子をつぶすためにあるのではなく、わが子の可能性を伸ばすためにあるのですから。
次回は、このシリーズ最後の⑦家庭のしつけが厳し過ぎる。(自己肯定感が得られず、能力が開花しない)です。